「漢方」の奥深さについて学ぶ


香港での新しい発見の一つである「漢方」について触れてみたいと思う。


妻共々、「超健康体」を自負する二人だが、来港以来、時折襲ってくる頭痛や
体調不良に原因が分からず、もやもやしながらも解決策も無いまま悩まされ、
今に至っていた。


実際に通いその効果を体感したという信頼のおける現地の友人の勧めもあり、一ヶ月前より妻と二人で漢方に
通い始めた。


正直、半信半疑であった。年を重ねると未知の物事を疑いも無く受け入れる寛容性が失われていくからだろうか。


行くとそこには、長蛇の列が。3坪程のスペースながらも伝統を感じさせる店構えであった。


奥には、存在感漂うご老人がスーツを身に纏い、真剣な面持ちで診察を行っていた。この方が「漢方医」、別の名を
中医」(チョンイー)である。右手には薬剤師が中医の処方に基づき、数十という壷の中から必要な薬剤を淡々と
処方していた。別の名を執薬(チャッフヨク)という。左手には煎じた薬を飲みに出直した人々が漢方薬を決して
おいしそうにとは言えない面持ちで飲んでいた。


我々の番となり、「ニーハオ」と挨拶をするとにっこりと微笑んだ。「少年の心を持った可愛いおじいちゃん」そのもの
である。


一般的に、漢方医の診察は、①所見(顔色や舌色)をし、②患者から症状の訴えを聞き、③問診を行い、④脈を取る
という「望・聞・問・切」の4段階からなる。


ここでは勝手が違う。患者から症状の訴えを聞く事なく診断してしまうのだ。まず親指を手首にそっとあて、まるで
私の脈と対話するかのように暫し沈黙が続き、望診をした後、達筆な字で処方箋を書き始めた。


ぴたりと症状を言い当てた。驚きを隠せなかった。


可愛いおじいちゃん曰く、私は漢方的に「気」が弱い。熱い血が流れているのだが血の循環が良くない事、腎臓と
胃が弱い事を指摘された。一方、妻は体内の血液が少ない事、同じく血の循環が良くない事であった。互いに疲れ
易くなっているのは、その為だという。


漢方の世界では、人間の体質は「陰」と「陽」に分けられ、それぞれ陰は「寒底」、陽は「熱底」と呼ばれる。その身体
のバランスを保つというのが、漢方の本質であると言われる。この「寒底」、「熱底」は、食べ物自体の冷たさや熱さ
(辛さ)を表すものではない。“上海蟹は体を冷やすから、食べた直後には生姜茶で体を暖めると良い”といういう
のは、この考えたに基づいたものである。


香港に来て体調不良を訴える人の原因となる主な理由は、香港の「水」と「気候」。香港の水には多量のイオン成分
が含まれており、これが体に影響を与えているという。最高で90%を越えると言う湿気も体調の変化の原因となって
いる。


診察の結果、私は「大根・豆腐及び、ブランデーを除くアルコール」、妻は「大根・豆腐・乳製品・芥蘭菜
(カイランチョイ)は、漢方効果の妨げになるという事で控えるようにとのアドバイス


無数にある薬剤の中から中医が処方した15種類から成る植物と動物を原料とした薬剤を煎じてもらい、鼻を摘まんで
飲んだ。「良薬は口に苦し」は、万国共通であった。中国では、「苦口良薬」(クーコウリャンヤオ)と言う。


成分を飲む前に聞かないで良かった。因みに私の煎じてもらった漢方薬には、「あざらしのペニス、鹿の角」が入って
いた。


毎晩の楽しみである晩酌を絶ち、中医の教えをこの1ヶ月忠実に守っている。(自分との闘いである。)


漢方効果が出てきた頃、また報告したいと思う。